政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
「それで」

眼鏡の奥で零士さんの目がすーっと細くなり、空気が変わった。

「清華は俺に、キス、してくれるんだろ?」

するりと零士さんの手が、私の頬を撫でる。
うっ、忘れていなかったんだ。
いや、別に、零士さんとキスしたくないとかじゃないけれど。

「あの、えっと、……そう、ですね」

きょときょとと視線が定まらず、顔を逸らしてしまう。
内心、だらだらと変な汗を掻いた。

「ん」

促すように零士さんが、目を閉じて唇を少し突き出す。

「えと、あの」

するって言ったんだし、それにこれは償いでもあるわけで。
少しのあいだ迷ったあとに覚悟を決め、目をつぶって勢いよく零士さんの唇に自分の唇を触れさせた。

「……これで、いいですか?」

ゆっくりと目が開き、零士さんとレンズ越しに視線が合う。
彼は熱のこもった目で私を見ていた。

「……足りない」

零士さんの手が私の顔を掴む。
今度は彼の方から唇が重なった。
けれどそれはなかなか離れない。
これっていつ、息をしたらいいんだろう?
そろそろ、苦しい……。
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