今さら好きだと言いだせない
「営業部?」
「徳永さんから原材料のことで相談したいと言われてて」

 デスクの上に置いていたファイルを持って立ち上がると、ニヤついた顔をした高木さんと目が合った。
 さっきまで忙しそうにしていたけれど、今は暇なのだろうか。いい加減自分の仕事に戻ってもらいたい。

「なんですか?」
「徳永ねぇ。それはそれで新たな敵を作るかもよ?」

 あご元に手をやりつつ意味深な視線を送ってくる高木さんから逃げるように、私は一歩後ずさった。

 今から一緒にミーティングをする営業一部営業三課の徳永 大輔(とくなが だいすけ)さんは、先々月横浜支社から転勤してきた人だ。
 私と燈子はまだ交流は少ないが、高木さんは営業一部に所属していたこともあり、徳永さんとは同期なので知らない仲ではないらしい。

「徳永はめちゃくちゃ人気みたいだし」
「……ですね」

 高木さんはおどけながらも若干悔しそうな、複雑な表情になった。
 たしかに彼の言うとおりだ。徳永さんの人気はうなぎ上りで、それを考えると過度に親しくしたら大勢から嫉妬されそうではある。

「今日は北野くんも一緒で三人だから大丈夫ですけど、以後気をつけます」

 愛想笑いの笑みをたたえつつ、私は企画業務部の部屋を出て同じ階にある営業部へと向かった。
< 10 / 175 >

この作品をシェア

pagetop