今さら好きだと言いだせない
「芹沢、酔ったのか? ……いや、逆だな。全然飲んでないみたいに見える」
「俺、酒は強いんで」
「俺もそこそこ強いけど?」

 敵意を含んだ徳永さんの言い方に、ついに本性を現したなと思った。
 この人は会社ではいつも爽やかな仮面をつけていただけだったのだ、と。

「どっちが強いか勝負しようか」
「は?」
「俺が勝ったら彼女をもらう、っていうのはどう?」

 目の前にあったジョッキをつかんで、誰かが飲み残していた中身を徳永さんに浴びせそうになった。
 だが、さすがにそれはまずいと自分にブレーキをかける。頼むからその口を閉じてくれ。俺の怒りが頂点に達しないうちに。

「飲み比べの勝負? 南帆を賭けの対象にするな!!」

 徳永さんは、実はこんなに最低な男だったのだ。俺ですら見た目の爽やかさに騙されていた。中身は高木さんとそう変わらないじゃないか。
 顔はイケメンだが、性格は毒まみれだ。

< 108 / 175 >

この作品をシェア

pagetop