今さら好きだと言いだせない
「大丈夫です。ちゃんと帰れましたので」
「彼氏が送ってくれたんでしょ?」

 彼氏……もちろん芹沢くんのことだ。私はその質問に小さくうなずいた。
 自分たちの部へ戻るため、どちらからともなくエレベーターのほうに向かって歩みを進める。

「仲いいなぁ。まぁ、まだラブラブな時期だもんな」
「そう……ですね」
「休みの日にふたりでデートしたりするんだよね?」

 偽の恋人なのでそれはありえないのだけれど、にこりと笑って肯定しておいた。
 嘘は塗り重ねたくないから、これ以上詳しく聞かないでほしいと願いつつ、到着したエレベーター機の中へ乗り込む。

「芹沢とだけ仲良くしないで、たまには俺ともデートしてよ。アイツばっかりずるい」

 機内には私たち以外誰もいないので、徳永さんは堂々と固有名詞を口にする。
 しかしまた、とんでもない冗談を口にしたものだ。
 もしこれが高木さんなら、私も適当に言い返して終わりなのだが、徳永さんが相手だとそうもいかない。

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