今さら好きだと言いだせない
 今までは徳永さんを見かけるたびに、爽やかでカッコいい印象だったのに、今日はそんなふうに感じないのはなぜだろう。
 意味ありげな発言をされても、少しもドキドキしないから不思議だ。

「ずるいって……芹沢くんは私の彼氏ですから」
「それはもちろんわかってるけど。嫉妬深そうなアイツにバレないように、こっそり俺と会おうよ」

 今の発言は本気だ。そう直感してしまった今、徳永さんに裏の顔があるような気がしてきて怖くなる。

「なに言ってるんですか……」
「ホテルのディナー、ご馳走するからさ」
「行きませんよ」

 豪華な食事がなんだというのだ。食事は誰と食べるかで味が変わる。
 私は徳永さんとホテルで食事をするよりも、芹沢くんとカフェであたたかい紅茶を飲むほうがいい。

「なんで? 芹沢に悪いから? そんなの黙っていればいいのに」

 徳永さんはさっきから、“バレないように” “こっそり” “黙っていればいい”……そんな言葉ばかりだ。
 誠実さからかけ離れた部分が見え、私は唖然としてしまう。

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