今さら好きだと言いだせない
「二股が嫌なら、芹沢とは別れちゃえば?」

 エレベーターが止まって扉が開いたタイミングで、私は徳永さんよりも先に外へと飛び出した。

「町宮さん、ちょっと待ってよ」
「お誘いには応じられません。すみません」

 うつむいたまま一方的に言葉を言い放ち、徳永さんの顔を一切見ずに小走りで自分の部へ戻る。

 デスクの上にバサッとファイルを置き、椅子に腰をかけると同時に溜め息が出た。
 今の人物は本当に徳永さんだったのかと疑いたくなるほど、私には衝撃だったのだ。
 爽やかさを絵に描いたような徳永さんが、まさかあんなに肉食だったとは。

 だけど考えてみれば、顔が綺麗だから心も誠実だとは限らない。
 それに関しては周りが勝手に決めつけていただけで、作られたイメージだったのだろう。

「町宮、どうした? そんな顔して」

 そばを通りかかった高木さんが声をかけてくるくらいだから、今の私の顔は悲愴感(ひそうかん)が漂っているみたいだ。

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