今さら好きだと言いだせない
「まぁでも、人それぞれっていうか明確な理由はないんじゃない? 単純にモテたい気持ちとか、向こうから寄って来られたり……あと、衝突事故みたいな“ゆきずり”もあるから」
「ゆきずり?!」
「町宮には考えられないかもしれないけど、そのときだけ盛り上がってそうなった、とかさ。なにか相談に乗ってるうちに同情して、とか? 芹沢だったら後者かもな」

 高木さん曰く、愛情などなくても、そういうことが起こり得るらしい。
 徳永さんは自分から女性に接近しているように見えるから、どんな言い訳も通用しないと思うけれど。

「イケメンの彼氏を持つと苦労するよな」
「だから、芹沢くんの話じゃないですって!」

 未だに高木さんは芹沢くんが浮気したのだと邪推しているようだ。
 そこは彼に迷惑がかからないようにきちんと否定しておかなければ。

「芹沢じゃないなら誰? さっきからずっと、町宮は自分の話をしてるように見えてるけど?」
「いや、あの……」
「ほんとにお前ら付き合ってんの?」

 口ごもってしまった私に、高木さんはすかさず懐疑的な視線を差し向けてきた。

『高木さんはまだ、俺たちが付き合ってるかどうか疑ってる。なにか言ってきたら証拠としてそれを見せつけてやれ』 

 私は芹沢くんの言葉を思い出し、バッグからキーホルダーを取り出して高木さんの顔の前に突きつけた。

「これ! 彼から渡された合い鍵です。ちゃんと本物ですよ? 私たち付き合ってるんで!」

 高木さんは私の荒々しい動作に驚きつつも、苦笑いでうなずいていた。

 鍵は本物だが交際は偽装だ。
 私はいつからこんなに嘘がうまくなったのだろうと、いたたまれなさから溜め息を吐きそうになった。

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