今さら好きだと言いだせない
 仕事が終わって家に帰り、寝る準備をする二十三時ごろにスマホが着信を告げた。
 電話をかけてきたのは芹沢くんだ。
 プライベートで電話することなんてなかったので、なにかあったのだろうかと不安がよぎりつつ、私は通話ボタンをタップした。

「もしもし。芹沢くん? どうしたの?」
『こんな時間にごめん。寝てた?』

 毎日会社で顔を合わすし、仕事のことで会話もするのに、電話で聞く彼の声はいつもと違う感じがした。
 スマホという機械を通しているのに、なんだか温かさが伝わってくる。

「ううん、寝てないよ。大丈夫」
『急で悪いんだけど、明後日の土曜、予定空いてる? ちょっと遠出しないか?』

 いきなりどうしたのだろう。遠出をしようと言うのだから、特に用事があるわけでもなさそうだ。

「どこに行くの?」
『車でブラブラ。今日、町宮が元気なさそうな顔してたから。気晴らしになるかなと……』

 おそらく、徳永さんと話したあとの私が浮かない顔になっていて、芹沢くんはそれに気づいてくれたのだ。
 そんな些細な変化も見逃さない彼に、さらに心を持っていかれてしまう。

『会社で嫌なことでもあった?』
「ううん、そうじゃないよ」

 嫌というか、徳永さんから衝撃的な話はされたけれど。芹沢くんに包み隠さず話すことは気が引けてできない。
 なんでもない、なにもなかったと私は誤魔化しておいた。

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