今さら好きだと言いだせない
「今度のスープなんだけど……」
「チーズのことですよね?」
「ああ、そうなんだよ」

 徳永さんたちは新発売のスープに(たずさ)わっているのだけれど、使用する原材料のチーズのことでつまづいたらしい。
 
「研究部は、やっぱりここの産地のチーズがいいって言っててね」

 研究部は実際にレシピを作ってみて、どの素材がいいのかなど、味を研究する部署だ。
 私が所属する企画業務部は、企画案を出して研究部に回し、上層部の会議で商品化が決まれば原材料の手配をする。
 営業が原材料に細かい口出しをするのは(まれ)なのだけれど、熱心に研究部に顔を出している徳永さんならありえる話だ。

「取り扱いのある業者をまとめておきました。工場に納入するなら大量発注になりますし……」
「ありがとう、助かる。難しいなら別のチーズにするか……悩むな」

 持参した資料をパラパラとめくるふたりに、私はプリントアウトしてきた資料をふたりに手渡した。
 北野くんはまだ一年目なので、資料に手書きでなにか必死に書きこんでいる。
 さすがに先輩の徳永さんは余裕があって、腕組みをする姿も様になっている。
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