今さら好きだと言いだせない
「家まで来てくれてありがとう」
「いや、俺がドライブに誘ったんだから。……車内、寒い?」
「大丈夫。あったかい」

 私がガチガチに固まっているから寒そうに見えたのだろうか。芹沢くんは車のエアコンの温度や風向きを調整してくれた。
 こういう何気ない部分も芹沢くんはやさしい。
 暑いとか寒いとか気にしてくれたことがうれしくて、自然と頬が緩んでしまう。

「どうした? なんか今日はいつもと違うな」

 車を発進させながら、芹沢くんがポツリとつぶやく。

「そう? 芹沢くんの私服がカッコよくて、緊張してるからかな」
「俺は普通だろ。まぁ……デートだからそれなりの服を選んだけど」

 芹沢くんが前を向いて運転しながらも照れたような表情になったのがわかった。
 偽物の恋人関係なのに、彼は“デート”という認識でいてくれているのだと知れば、いやが上にも私の胸が高鳴る。

< 120 / 175 >

この作品をシェア

pagetop