今さら好きだと言いだせない
 ミーティングは二十分ほどで終了した。
 北野くんはほかのクライアントに電話を一本かけなければならないそうで、私にていねいに挨拶をしたあと、先にミーティング室を出て行ってしまった。

「北野くん、忙しそうですね」
「バタバタしてごめんね」

 私も長机の上に広げた資料やファイルをひとつにまとめ、徳永さんに声をかけながら椅子から立ち上がる。

「なんだか初々しくていいですよ。がんばってますし、応援したくなります」
「本人が聞いたらよろこぶだろうね。でもアイツ、勘違いしそうだな」
「勘違い?」

 意味がよくわからなくて、私は微笑みながら小首をかしげた。

「綺麗な女性にやさしくされたら、北野の性格なら惚れちゃいそうだなと思って」
「え?! 綺麗だなんてそんな!」

 北野くんの性格うんぬんの前に、徳永さんから綺麗だと褒められたことに反応してしまった。
 顔の前でブンブンと大げさに手を横に振る私を見て、徳永さんはフフフと笑い声を漏らす。
 恥ずかしくてうつむいていた顔を上げると、私などとは比較にならないほど綺麗な笑顔がそこにあった。

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