今さら好きだと言いだせない
「だからデートの誘いもきっぱり断ったし、それで悩んだりしてないの」
「けど、ショックだったんだろ? 元気がなかったのもそのせいだよな?」
「恋人にバレないように遊ぼうとしてる徳永さんの本性を知ってイメージが崩壊したからね」

 徳永さんは会社で顔を合わせるといつも笑みを向けてくれて、スーツ姿がカッコ良くて、上品な香水の香りがふわりと漂う、爽やかを絵に描いたような先輩だった。
 そのイメージが私の中で全部真っ黒に塗りつぶされてしまったような感覚なのだ。
 私が勝手に思い描いた人物像と違ったというだけで、大袈裟かもしれないけれど。
 尊敬できる先輩だっただけに、恋人がいるのに二股しようと(たくら)む姿が残念でならない。

「徳永さんが二股の相手に私を選ぼうとしたのもショックの一因かな。私なら適当に遊べそうだって、軽く見られた証拠だもんね」

 本命ではなく遊び相手の女性なのだから、誰でもよかったんじゃないかな。口説いてすぐに落とせそうな女性なら。
 そこで私を、と思われたことが悔しいし、悄然(しょうぜん)としている原因になっている。

「徳永さんがどういうつもりだったのか別として、町宮は好きだったんじゃないか?」

 私が徳永さんに恋心を抱いていたかどうか。
 すべてはそこだと、芹沢くんが腕組みをしながら私の反応をうかがう。


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