今さら好きだと言いだせない
「営業部のヤツらは飲み会が好きだし、よかったら町宮さんも今度一緒にどう?」

 営業部を出て、研究部に出向こうとする彼と一緒に歩く中、不意にそんなお誘いを受けた。
 たしかに営業部の人たちの飲み会好きは有名だ。

「もしかして北野くんの援護射撃ですか?」

 思いきり冗談で返してみると、徳永さんは一瞬天を仰いで軽快にアハハと笑ってくれた。

「そんなわけないでしょ」
「無理に私を押し付けたら、北野くんがかわいそうですもんね」
「町宮さんを断る男なんて、いる?」

 身長の高い徳永さんが体を傾けて私の顔を覗き込んでくる。
 驚いた私は横に一歩離れたが、突然の行動にドキドキと鼓動が早くなった。
 
「そ、そりゃいますよ。やだなぁ、徳永さん。からかわないでください」

 取り繕うように早口で言い、私は顔を赤くしながら歩みを進める。
 自分の部へ戻る私に、徳永さんが「今日はありがとう」と研究部との分岐の場所でもう一度軽くお礼を言った。

「徳永さん、待ってください!」

 そんな彼を呼び止め、私は近づいて真正面に立った。

「ネクタイが曲がってしまってます」
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