今さら好きだと言いだせない
「なんでそんなにうつむいてんの?」

 私が目を合わさずに手で顔を隠しているのを不思議に思ったのか、彼は洗面所から戻った私に怪訝そうな声で尋ねた。

「スッピンだし……不細工すぎて……」
「ああ……目が腫れてるから? 冷やすか?」
「ううん! 大丈夫」

 近づいて来られたのがわかって、思わず後ずさった。
 顔を凝視しないでほしいのもあったが、近い距離にいると昨夜の出来事を思い出して顔が赤面してしまうから。

「私、そろそろ帰るね。お邪魔しました」
「待て待て。ひとりで帰る気? 車で送るよ」
「電車で帰れるから」

 あわあわとしながら大丈夫だと伝えたのだけれど、「そういう問題じゃない」と一蹴されてしまう。
 私は観念して芹沢くんが運転する車に乗り込み、自宅まで送り届けてもらった。

「芹沢くん、ありがとう」
「じゃあ、また明日」

 マンションの前で手を振って車を見送ると同時に、自然と小さく溜め息が漏れた。
 そうだ、すっかり頭から抜け落ちていたが、明日も彼と顔を合わせるのだ。
 同じ会社の同じ部署同士なのだから、至極当然に。

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