今さら好きだと言いだせない
 芹沢くんとのデートの予定は元々ないのだが、愛想笑いの笑みをたたえながらうなずいておいた。
 溝内さんに芹沢くんの話をするのは心苦しいので早く話題を変えたい。嘘の上塗りはなるべくしたくないから。

「実は私、今日これからデートなんですよ」
「そうなの?!」

 彼女からの突然の告白にビックリして声が裏返りそうになった。そんな私を見て、溝内さんは恥ずかしそうにはにかむ。

「かなり前からアプローチしてくれてた人がいるんです。芹沢さんを好きだったころはずっと断ってたんですけど、今はゆっくりと仲良くなれたらいいかなって、気持ちが徐々に変わってきて。自分でも驚いてます」

 芹沢くんへの気持ちにケリをつけたからこそ、次の恋に踏み出すことができたのだと思う。
 まだ少しためらいがある感じがするものの、相手の男性と向き合って大事にしていきたいのだと溝内さんの言葉から伝わってきた。

「町宮さんは芹沢さんと順調ですか?」
「え、うん。まぁ……」

 偽装恋愛だったのに一線を越えてしまって、よくわからない関係になっているだなんて、口が裂けても言えない。
 私は照れを装いつつ曖昧に笑みを浮かべた。


< 146 / 175 >

この作品をシェア

pagetop