今さら好きだと言いだせない
 徳永さんなりの謝罪なのかもしれないけれど、終わった話を蒸し返されるのはご免だ。
 私は会釈をして背中を向けたが、「待って」と再び呼び止められた。

「そんなに逃げないでよ。今からストレートに本心を言うから聞いてほしい」

 私の行く手を塞ぐように目の前に立たれたら、とりあえず彼の話を聞かないわけにはいかなくなった。気が進まないけれど仕方がない。

「二股は嫌なんだよね?」
「はい」
「だったら俺、横浜の彼女と別れるから。君も芹沢と別れて俺と付き合って?」

 徳永さんがなにを言いだしたのか理解しようとしても頭が追いついていかない。
 私はポカンと口を開いたあと、息を吸い込んで大きく溜め息を吐いた。

「意味がわからないです」
「意味って……そのままだよ」
「私が喜んで首を縦に振ると思ったんですか?」

 心の底から真剣に尋ねたのに、徳永さんはなぜかほんの少しだけ笑った。

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