今さら好きだと言いだせない
 今日の徳永さんはモノトーンのグレンチェックのネクタイを締めていたのだけれど、それが右横にずれて曲がっていることに気がついた。
「ちょっと失礼します」と言葉をかけながら、ネクタイに手をかけて元の位置に戻して形を整える。
 そんな私を見下ろしつつ、彼はされるがままだ。

「徳永さんはオシャレですよね」
「ありがとう」

 よしできた、とばかりに顔を上げると、至近距離で徳永さんと視線が合った。
 このときの切れ長の瞳はなんだか妖艶で。それを意識した瞬間、条件反射のようにドキッと心臓が跳ね上がる。

「ごめんなさい。私、余計なことを……」

 赤い顔をしながらあわてて後ずさると、追いかけるように徳永さんが同じだけ距離を詰めてきた。

「それは計算じゃなくて天然だよね」
「……へ?」
「これが飲み会の夜じゃなくてよかったよ。北野どころか俺まで落とされてるな」

 にっこりと笑い、最後の言葉は私の耳元で囁くようにつぶやいて去って行く。

 今の私の顔はおそらく、ゆで蛸みたいに真っ赤だろう。
 こんな状態ではデスクに戻れないなと、その場にとどまって手で顔を仰いでみるが、なかなか熱が取れない。

 徳永さんはモテるわけだ、と妙に納得してしまった。
 俺まで落とされるだなんて、冗談を真に受けてはいけないと、ふるふると頭を振って思考を止めた。

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