今さら好きだと言いだせない
 高木さんが真剣な視線を差し向ければ、徳永さんが対抗してギロリと睨んだ。
 いつも会社で見せていた物腰やわらかな徳永さんはどこに行ってしまったのかと思うほど、普段と印象が全然違う。
 高木さんの言葉にカチンと来て、素の部分が露出したのだろうか。彼の急な豹変に私は恐怖を覚えた。

「町宮、戻るぞ」

 なにか文句を言いたそうな徳永さんを横目に、高木さんが私に声をかけて歩き出した。
 その後ろを張り付くように、私もこの場から退散する。

「町宮さん! さっき言ったことは本気だから、考えといてね!」

 不意に振り向いた先に見えたのは、いつもの爽やかな笑みをたたえた徳永さんの姿だった。
 表の顔と裏の顔、どちらが本当の徳永さんなのか、私にはもう判断できない。

「高木さん、ありがとうございました」

 隣に並んで歩きながら私がお礼を言えば、高木さんはなんでもないように笑って軽くうなずいた。

「たまたま通りかかってくれて助かりました」
「礼はいいよ。俺、アイツのこと嫌いだから」


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