今さら好きだと言いだせない
 芹沢くんの笑った顔は宝石みたいにキラキラと綺麗だな、なんて見惚れていたら、急に周囲から視線を感じた。
 他部署の女性社員たちがこちらの様子をうかがいつつ、ヒソヒソ話をしながら去って行く。
 なにか悪口を言われたような気がした。芹沢くんはイケメンだから嫉妬されるのは仕方がない。

「芹沢」

 芹沢くんの後ろから声がしたので視線を移せば、営業部の山本さんが挨拶がてらに彼の頭を後ろから小突いていた。

「山本さん、お疲れ様です」
「こんなとこで堂々とイチャつきやがって」

 私も山本さんに「お疲れ様です」と声をかけたが、冷やかされたので恥ずかしさがこみあげてきて、顔を赤く染めてしまった。
 山本さんはきっと、さっきの唐揚げのやり取りのことを言っているのだと思う。
 私としてはやや強引に口の中に放り込まれた感覚だったが、周りからしたら彼氏が彼女に食べさせているように見えたのだろう。

「仲いいなぁ、おい。羨ましいよ」
「俺の彼女、かわいいでしょ?」
「ノロけるなよ。独り身の俺はいじけるしかなくなるだろ。毎日恋人の顔が見られるなんて幸せだぞ」

 仲がいいのは芹沢くんと山本さんのほうだ。こんなふうに冗談を言い合うふたりを目にすると、本当に気が合っているのだと実感した。

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