今さら好きだと言いだせない
「今はバタバタしてるから、また落ち着いたら飲みに行こうな」
「年末は営業部も大変ですからね」
「ああ……まぁ、ほかにもちょっとあって。また話すわ」

 山本さんは相当忙しいのか、着信があったスマホの画面をチェックして顔をしかめた。
 そして私にも「お先に」と声をかけつつ、芹沢くんの肩をポンポンと叩いて去って行った。
 山本さんの姿を見送って視線を戻すと、真剣な表情をした芹沢くんと目が合って、私は若干うろたえた。

「俺、町宮に話したいことがある」

 彼にそう告げられた瞬間、矢を射られたように心臓が大きくひとつ脈を打った。

「でもここでは無理だ。時間も足りないし、もっと静かな場所でゆっくりと……」
「私も芹沢くんと話さなきゃって思ってた」
「……そうか」

 私の目を見て、芹沢くんは納得するようにコクリとうなずいた。
 私たちが頭に思い描いている話の内容は、おそらく同じなのだろう。

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