今さら好きだと言いだせない
「会場まで徒歩五分くらいだから」
「うん」
「なんだか今日の町宮はかわいいな」

 いきなりそんな言葉が聞こえてきたので隣を向くと、芹沢くんが視線を上下に往復させて私を見ていた。
 一瞬ドキッとしたけれど、どうやら服装のことらしい。

「そう? ありがと。でもほら、今日は遊びじゃないしね。誰に会うかわからないから一応名刺も持ってきたの」

 落ち着かない様子で言葉を連ねる私に圧倒されたのか、彼は静かにうなずいた。

「芹沢くんはスーツだろうし、私もそれなりの格好してこなきゃって……」
「……なるほど」

 お世辞に決まっているのに、ちょっと褒められたくらいで、この混乱ぶりはなんなのかと自分でも思う。
 それを誤魔化そうとすればするほど空回りしている。絶対に今、顔が赤いだろう。

「だって芹沢くんはカッコいいから。いつもだけど、今日はそれ以上に!」

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