今さら好きだと言いだせない
 少しばかり雰囲気のいい、女性が好みそうなバルのお店を見つけた。
 私と一緒だからか、芹沢くんはそこに入ろうと言ってくれたが、「違うお店にしない?」と彼の腕を引っ張ってそれを阻止する。

 咄嗟にそんな行動に出た自分に驚いた。
 わりと早い時間だというのに、店内には女性客が集まっていて、芹沢くんがお店に入れば、その人たちから熱い視線を送られるのは目に見えていたから。
 あとになって考えると、私は彼を女性客の目に(さら)したくなかったのだと思う。

 きっと独占したかったのだ。カッコいい芹沢くんを。
 ……自分の彼氏でもないのに。

 私は彼の腕を引っ張ったまま、数軒先にある普通の居酒屋に足を踏み入れる。

「なんでこっちなんだよ」

 芹沢くんはおとなしくついて来てくれたけれど、あきれながら笑っていた。

「だ、だってこっちのほうが良さそうっていうか……」
「ここ、チェーン展開してるからどこにでもあるだろ」
「……ごめん」

 私はおしぼりを手にしながらシュンと肩を落とした。

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