今さら好きだと言いだせない
「謝らなくてもいいけど。ここの唐揚げうまいから。町宮もビールでいいか?」

 小さくうなずくと、芹沢くんは生ビールをふたつと、適当に料理を頼んでくれた。
 せっかく私に気をつかってオシャレなお店を選ぼうとしてくれたのに、それを無下にしたようで、今さら申し訳なさがつのってくる。

「しかし、町宮が普通の居酒屋のほうが好みだなんて意外だな」
「ううん、友達とはバルに行ったりするよ?」
「そうなんだ」

 芹沢くんは目立つから女性がたくさんいるお店は避けたかった、などと正直には言えない。
 それだとまるで、私が芹沢くんを好きみたいじゃない。

 だけど先ほど一気に湧きあがった感情は、間違いなく“独占欲”だった。
 芹沢くんをひとり占めしたいだなんて、今まで一度も思ったことはないのに。
 自分でもわけがわからなくてモヤモヤしてくる。

「お疲れ様」とふたりでジョッキをコツンと合わせて乾杯をする。
 グビグビとビールを喉に流し込む芹沢くんは、どことなく男の色気を(かも)し出していて、見ているだけでドキドキした。

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