今さら好きだと言いだせない
「あ、あの……」

 まるで獲物を捕らえるような、色気を帯びた芹沢くんの瞳から目が離せない。

「町宮は隙だらけだな」

 身体を密着させた状態で囁くように言われ、次の瞬間、私の熱くなった頬に彼の唇が触れた。
 しっとりとした唇の感触に、これはキスなのだと我にかえった私はあわてて両手で彼のたくましい胸板を押す。
 ほんの少し距離を取りながら見上げた芹沢くんは、動揺するでもなく平然としていた。

「こうなるから、高木さんにはネクタイ直したらダメだからな? 頬で済んだらいいほうだ」
「……へ?」
「高木さんだけじゃなくて、ほかの男もダメだぞ」

 こうなる、ってなに?
 どさくさに紛れて頬にキスしたよね? と私は言葉にできず、ただ唖然とするばかりだ。

 身体を駅の方向へ向け、「行くぞ」と普通に声をかけてくる彼の少し後ろを歩く。
 ドキドキとする心臓は治まらず、顔は火が付いたように熱いまま、ゆるゆると帰路をたどった。

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