今さら好きだと言いだせない
 週が明けた月曜日の朝、芹沢くんから「おはよう」と挨拶された私は、瞬間的に肩をビクッとさせてしまう。
 声をうわずらせないように「おはよう」と返事をするので精一杯だったけれど、彼の態度はいつもと変わらず、いたって普通だった。

 ……まるでなにもなかったみたいに。

 あれは夢だったのだろうか。酔っていたせいで、私が脳内で勝手に妄想を繰り広げた?
 いや、それはない。そこまで酔っていなかったし、あんなリアルな妄想はできない。
 私の頬にキスしておきながら、彼はよく普通にしていられるものだ。意識したりしないのかな?

 頬だったから、彼の中ではキスしたうちに入らないのかもしれない。
 だとしたら、あれはノーカウントになっているのだろうけれど、その判定は私にはありえない。

 おとといの夜に至近距離で見た芹沢くんの熱のこもった瞳が頭に浮かんできた。
 吸い込まれてしまいそうで、とても魅惑的で……

 そんなふうに見つめながら頬にキスするなんて、ただの同期に対してする行為ではないと思う。
 声には出さずにブツブツと心の中で文言を並べ、デスクに両肘をついて頭を抱えた。
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