今さら好きだと言いだせない
「おはよう! 南帆、朝からどうしたのよ!」

 元気よく出勤してきた燈子に背中をバシッと叩かれ、のそのそと顔を上げたら、「うわっ」と若干引かれてしまった。

「なにかあったね?」
「燈子ぉ」
「情けない声出さないの。お昼休みに聞くから。とりあえず午前の仕事をがんばろう」

 時計の針が正午を指すと同時に、燈子と連れ立って外へランチに出かける。
 今日ばかりは、社内の人間が訪れないであろう渋い店構えのお蕎麦屋さんを選んだ。
 予想通り店内は空いていて、ここならうっかり誰かに話を聞かれることもない。

「で、なにがあったの? 全部吐き出しちゃいなよ」

 燈子が温かいお茶をすすりながら、私の言葉に耳を傾けてくれた。

 どこから話していいやらと思いつつ、芹沢くんと菓子博に行ったこと、徳永さんのネクタイを直したこと、その気もないのにそれはダメだと芹沢くんに注意されたことを、簡単にかいつまんで話した。

「芹沢くんと菓子博デートとか、聞いてないんですけどー」
「ごめん、言いそびれて……。ていうか、デートじゃないって」

 首を横に振って否定していると、頼んだ盛り蕎麦が運ばれてきて、「お腹すいた! いただきます!」と燈子が舌鼓を打ち始めた。
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