今さら好きだと言いだせない

「ネクタイの件はさぁ、南帆は深く考えずに直してあげただけなんだろうけどね。でも芹沢くんの意見もわかるよ。それで徳永さんがその気になったとしたら、南帆はどうする？」
「どうするって……」
「はっきりと告白されたら、付き合うの？」

　ものすごく直球な質問だ。さすが燈子だな、などと感心している場合ではない。私はすぐさま脳内シミュレーションを開始した。
　もしも徳永さんが私を好きだと言ってくれたなら、私は交際をオッケーするか否か……

「全然わかんない。想像つかないもん」
「なにそれ」

　燈子は口に含んだお蕎麦を一瞬吹き出しそうになり、あわてて咀嚼(そしゃく)して飲みこんだ。

「だから、その気がないのに勘違いさせたら、向こうもかわいそうだしこっちも困るって話じゃん」
「たしかに。後の展開がね。今、考えてみたけど結論出なくて困っちゃった」

　徳永さんは驚いたかもしれないけれど、あのとき私がただネクタイを直しただけだとわかってくれたはず。
　勘違いに関してはセーフだと思いたい。