今さら好きだと言いだせない
 話しこんでいたらお昼休みが終わりそうになり、あわててふたりで会社に戻って午後の業務に勤しんだ。
 だけど今日の私は仕事に集中できず、ボーッとしてばかりだ。

『どっちにする?』
 最後に燈子が尋ねた言葉が、頭の中でリフレインする。

 どっちにするもなにも、私は選ぶ立場にない。
 そんな妄想はするだけ無駄だとばかりに、頭を振って思考を止めた。

 だけどなぜか、自然と顔が浮かぶのは、―――片方の人物ばかり。

『ネクタイって体の一部みたいな感じだしさ。突然触ってこられたら意識しちゃうんじゃないかな』

 燈子の意見がじわじわと身に染みてくる。
 もっと配慮するべきだったと、自分の不用意すぎる行動を反省した。
 たしかに突然触れられたらドキッとして当然だ。
 腰を引き寄せられたリ、頬にチュ、とか……私もそうだった。

 と、またぐるぐると同じ思考が繰り返されてしまい、これではダメだと溜め息が出た。


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