今さら好きだと言いだせない
§3.偽装カップルの提案
***

 季節が半月ほど進み、めっきり気温が低くなった。もうすぐ冬も本番だ。
 晩秋から初冬にかけて少しずつ寒くなるならまだしも、いきなり最低気温が一桁になり、冬が嫌いな私にとってはつらい季節に突入した。
 
「俺、今から総務に行くけど、経理に渡すものがあったら代わりに届けとこうか?」

 真横に人影が出来たと思ったら、その正体は高木さんだった。
 パソコンで作業をする私と目線の高さを合わせるように腰を屈めて話しかけてくる。
 微妙に顔が近い。肩に手を置くなど身体的接触はなにもないけれど、思わず椅子に座ったまま距離を取った。

 総務と経理は部屋は別々だが、場所は隣同士だ。
 高木さんは私が経理で溝内さんと顔を合わせないように気遣ってくれたのだと思う。

「今は大丈夫なので。お気遣いありがとうございます」
「そう? いつでも言ってよ。俺、やさしい先輩だから」
「あはは。ですよね」

 やさしいか冷たいかで言えば、高木さんはやさしい人だけれど、自分で誇張してしまうあたりがカッコよさに欠ける。
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