今さら好きだと言いだせない
 会話に冗談が混じっているのがわかるので、私もいつも通りサラリと流しておいた。
 なのに未だ高木さんは私のデスクのそばから離れない。

「町宮、今日仕事終わったら、俺と飯行かない?」

“俺と”と言ったので、“ふたりで”という意味だろう。こんなふうに高木さんから食事に誘われたのは初めてだ。
 助けを求めるように隣のデスクにチラリと目をやったが、あいにく燈子は席をはずしていた。

「うーん……やめときます」
「なんでだよ!」

 笑顔で冗談っぽく断れば、高木さんも吹き出すように笑って突っ込む。まるで漫才のようなやり取りだ。

「俺、彼女に振られて寂しいんだよ。飯くらい付き合ってくれよ」
「え?! 高木さん、彼女いたんですか」

 高木さんは中指で鼻の上のフレームをクイッと上げて、メガネの位置を直した。

「彼女、って言ってもすぐ終わったから微妙なんだけどな。うん……そんな感じ?」
「全然わかりません」


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