今さら好きだと言いだせない
 きちんと付き合っていた仲なのかどうか、とても疑わしい。
 怪訝な表情を向けた途端、高木さんが二ッとイタズラっ子のように笑った。
 彼の恋愛事情については、私には関係ないのでどっちでもいいのだけれど。 

「なにか食べたいものある?」
「行きませんよ。今日は……先約があるので!」

 約束なんてない。断る口実として咄嗟に口から出てしまっただけだ。
 私に下手な嘘をつかせないでほしい。

「先約って本当? 誰と?」
「誰でもいいじゃないですか! 内緒です」

 視線をパソコンのモニターに移して仕事に戻ると、高木さんは「次は断るなよ」と言いながら私のそばから離れた。
 ほぅ、と息を吐く。

 先輩を警戒しすぎるのも良くないが、狙われていると芹沢くんに指摘されたので、さすがに無防備なままではいられない。自己防衛は大事だ。
 高木さんに対して特別な気持ちはないのだし、誤解がないようにきちんと私の意思も示しておかないと。
 

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