今さら好きだと言いだせない
 午後の業務が始まり、タイミングを見て芹沢くんと話そうと試みたけれど、残念ながら今日はお互いに仕事が立て込んでいる。
 芹沢くんがいる方向をチラチラと何度かうかがってみたが、彼も忙しそうにしていた。

 業務報告のようにサラリと言える内容ではないし、それならば就業後のほうが落ち着いて話せる。

『お疲れ様。話があるんだけど、仕事が終わったあと少しだけ時間をくれないかな?』

 手早くスマホを操作して芹沢くんにメッセージを送る。するとすぐに既読がつき、『わかった』と返事が来た。
 もう一度彼のほうへ視線を移せば、向こうもこちらを見ていて。
 心当たりがあると言わんばかりにうなずいて合図をし、私から視線を逸らせた。

『なるべく残業にならないようにするから』

 追加でメッセージが届いた。今のペースでは私まで残業になるかもしれないので集中して業務の速度を上げる。

 定時を少し過ぎたころ、パソコンの電源を落として立ち上がれば、仕事を終えた燈子も同じタイミングで椅子から腰を上げた。
 自然と駅まで一緒に帰ろうという流れになるが、私が彼女に「芹沢くんと話があるの」と耳打ちをすると、なにかあると察してくれた燈子は「了解」と笑顔で先に帰って行った。
 後日、根掘り葉掘り聞かれるのは覚悟せねば。

芹沢くんはまだパソコン画面を見つめたままだ。それを横目で確認し、私はひと足先に企画業務部の部屋を出る。

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