今さら好きだと言いだせない
 エレベーターで一階まで降りながら、どこで芹沢くんを待とうか思案した。
 外でじっと待つには寒いし、駅前のカフェで待ち合わせるには目立ってしまう。
 うーん、と頭をひねりながらロビーを出ようとしていたら、突然後ろから名前を呼ばれた。

「町宮!」

 振り返ると、すぐ近くに高木さんが立っていた。
 私が「お疲れ様です」と言うが早いか、高木さんは私の肩を抱くように接触してくる。

「ちょ、ちょっと高木さん! なんですか」
「飯行こうよ、飯!」

 するりと高木さんの腕から逃れ、立ち止まって抗議してみたものの反省の色などなく、彼は再び食事に誘ってきた。
 そんな態度に、私はあきれながらため息を吐く。

「先約があるって言いましたよね?」
「嘘つかなくていいって。約束があるなら、そんなにボーッと歩いてないだろ」

 飄々としながらも、高木さんはすべてを見透かしたように私にじとっとした視線を向ける。

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