今さら好きだと言いだせない
「約束なら本当にありますから!」

 “先約”ではないが、約束があるのは事実だ。
 それに、もし約束がなくても高木さんとふたりでご飯に行くのは気が進まない。

「誰と会うの? 女友達? それとも男とデート?」
「いや、それは……」
「わかったわかった。俺が飯食いながら話を聞くから」

 高木さんは私が嘘をついていると決めつけているのだろう。
 言い訳などどうでもいいからとにかく移動しようと、再び私の肩に手をかけようとした。
 だけどその手はほかの人間に掴まれて、私の肩には届かなかった。

「約束してる相手は俺ですよ」

 走って来たのか、少し息を乱している芹沢くんが私たちの間に割って入ってくれて、高木さんの腕をそっと払った。
 驚いた私は思わず目を見張ってしまう。

「高木さんには俺たちのこと隠さなくてもいいんじゃないか?」
「え……」
「それにお前、俺の部屋に先に行くって言っても、合い鍵をまだ渡せてなかっただろ」

 芹沢くんから“お前”なんて呼び方をされたのは初めてだ。
 それに、彼がなにを言っているのかさっぱりわからない。

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