今さら好きだと言いだせない
 高木さんに背中を向けた芹沢くんが私に目配せをしてきたので、話を合わせろという意味だと思う。
 そう理解したものの、どう反応していいかわからずに私は言葉に詰まった。

「“俺の部屋”? “合い鍵”?」

 高木さんが芹沢くんの言葉を拾い、目を点にしている。

「ふたりは……付き合ってんの?」

 その問いに芹沢くんが「はい」と首を縦に振れば、高木さんは気抜けしながらも驚きを隠せないでいた。

「いつからだよ?」
「最近ですよ。彼女が恥ずかしがるから黙ってました」

 どんどん話が進んでいく。嘘の上塗りは良くないと思い、私は芹沢くんのスーツの袖をそっと引っ張った。

「そういうわけなんで……」

 芹沢くんが高木さんの真正面に体の向きを変える。
 なんだか声に怒気が含まれている感じがして、私までブルッと身震いしそうだ。

「これ以上俺の女に手を出すな」

 凄味のある低い声で言い放った芹沢くんは、私の手を引いてそのまま会社の建物から外に出た。
 先輩に対してあんな言い方をして大丈夫だろうかと心配になってしまう。

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