今さら好きだと言いだせない
 私はあわあわとしながらも、顔だけで一瞬後ろを振り返れば、高木さんはあご元に手をやりながら微妙な笑みを浮かべていた。
 あれでは怒っているのかあきれているのかわからない。

「芹沢くん!」
「勝手なことして悪かったよ。静かな場所で話そう」

 芹沢くんは私と手を繋いだまま、大通りから離れたレトロなカフェに足を踏み入れた。
 居酒屋やファミレスでは周りの声がうるさいけれど、ここならばたしかに静かだ。
 案内されたテーブル席で、向かい合わせにそれぞれ椅子に腰をかける。

「なにから尋ねたらいいかわからない。でも……さっきは助けてくれたんだよね。ありがとう」

 運ばれてきた温かい紅茶の香りが鼻腔をくすぐり、私は少しだけ冷静さを取り戻した。
 あそこで芹沢くんが現れなければ、高木さんに無理やりご飯に連れて行かれたかもしれないから、助かったのは事実だ。

「ごめん。でも真っ先に俺の嘘を責めるんじゃなくて、礼を言うとは。町宮ってお人よし」

 クスッと笑いつつ、芹沢くんは長い足を組んで紅茶のカップを手にする。

「私が呼び出したのもその件なの。溝内さんにも同じように言ったでしょ」
「そうなんだよ……」

 溝内さんの名前を出した瞬間、芹沢くんが困ったとばかりに肩を落としたのがわかった。

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