今さら好きだと言いだせない
「本人から聞いたのか?」
「そう。ねぇ、どうしてそんなこと言ったの? 咄嗟に出た嘘?」

 前傾姿勢で尋ねる私に苦笑いしながら、芹沢くんはためらうように口を開いた。

「あの子、悪い子じゃないんだけどな。俺は付き合う気はなくて断ったんだ。でもあきらめられないってまた告白されて……」

 女性からアプローチされた話を淡々とする彼に、さすが同期で一番人気だけあるなぁ……なんて、思わず感心してしまう。

「困った俺は、最近彼女ができたって言っちゃって。社内の人間かって聞かれたから、町宮だ、って」
「はぁ?!」

 完全に、その場しのぎについた嘘だ。
 だからってどうして私の名前を出すかな。同期のよしみで、あとで説明すれば許してもらえると思ったのだろうか。

「どうするの……高木さんにも言っちゃったし」
「町宮には溝内さんの件は全部話すつもりでいたけど、さっきの高木さんは想定外。まぁでも、あの人にはあれくらい釘刺さないと町宮の身が危ないから、ちょうど良かったよ」

 先輩にあんなに威嚇するような声を出しておいて、良かっただなんて。
 彼と高木さんとの仲がこの先険悪になってしまったらと心配で、私は気が気ではないのに。

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