今さら好きだと言いだせない
「俺の家の合い鍵」
「え?! 本物?」
「もちろん」

 突然のことに面食らった私は、(てのひら)にある鍵と芹沢くんに交互に視線を向けた。

「持っといて」
「や、でも……」
「高木さんはまだ、俺たちが付き合ってるかどうか疑ってる。なにか言ってきたら証拠としてそれを見せつけてやれ」

 一種の“御守り”みたいな意味合いかな。悪霊退治するときの十字架みたいな……。
 いや、それだと高木さんが悪霊になってしまうから、さすがに失礼だけれど。
 偽装なんだから鍵が本物である必要があるのかどうか、そこは(はなは)だ疑問だ。

「失くしちゃったらどうしよう……」
「失くすなよ」

 芹沢くんに突っ込まれ、あわてて私は自分の鍵と一緒に合い鍵をキーホルダーにつける。
 これでうっかり紛失しないはずだ。

 彼が腕組みをしながら薄っすらと笑っている。なんだか機嫌が良さそうに。
 これでいいのかわからないし不安もあるけれど、芹沢くんはきっと私の味方でいてくれるだろう。
 不覚にもこのとき、彼の魅惑的な笑顔に胸を躍らせてしまった。

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