今さら好きだと言いだせない
 高木さんがそんな冗談を言うのはいつものこと。
 なので「仲良くはないでしょう?」とつぶやきつつ、作り笑いをしてサラリと流した。
 詳しくは知らないが、社内には過去に高木さんと付き合っていた人もいるようなので、一部には本気で嫉妬する人もいなくはないだろうけれど。

「高木さんと、というより……もしかしたら芹沢くんが原因じゃない?」

 自信ありだと言わんばかりに、燈子が声をひそめながらも固有名詞を口にする。

「あぁ、芹沢かぁ……」
「芹沢くんは同期で一番人気ですからね」

 軽くうなずいていた高木さんに、燈子が説明を付け加えた。たしかに芹沢くんがモテるのは事実だ。
 ロビーで他部署の女性から話しかけられているのを何度か見かけたこともあるし、イケメンであるがゆえに実は陰で女性をもてあそんでいるという噂もあるくらいだから。

「町宮、心当たりは?」
「芹沢くんと私、別になにもないですけど?」

 芹沢くんとは毎日顔を合わせるし会話もするけれど、ただの同期という関係で、それ以上でも以下でもない。
 だいたい、彼は手を伸ばしても届く相手ではないもの。
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