今さら好きだと言いだせない
「ふたりは仲いいじゃないの! 芹沢くんは南帆と話してるとき、よく笑ってるもん」
「そう?」
「うん。溝内さんはそれに気づいたんじゃない? だから嫉妬して、とか?」

 ニコニコと妄想を繰り広げる燈子に対し、私は小首をかしげて微妙な笑みを浮かべた。
 このタイミングで、仕事の一環とはいえ今度の土曜にふたりで菓子博に行くことになったとは言いだせなくて、なんだかバツが悪い。

「え、あの子って芹沢が好きなの?」

 燈子の推測が当たっているとすれば、高木さんが尋ねたように、溝内さんは芹沢くんに気があることになる。
 だとしても、恋人ではない私を(ねた)むのはおかしな話だ。

「南帆はかわいいし、ライバル視されてるんだよ」
「私、かわいくないって」

 私の顔は美人の部類ではないし、髪型は肩より少し長めのストレートのセミロングで、大人っぽさを出すために前髪は左右に分けて横に流しているけれど、メイクも薄めだし、どちらかと言えば目立つ感じではない。
 溝内さんのほうが目鼻立ちがはっきりしていてよほど美人さんだ。

「私、そろそろ営業部に行かなきゃ。今からミーティングなの」

 この話はもう終わりだとばかりに切り上げた。
 あまり憶測で物を言いすぎるのは良くない。噂に尾ひれが付いて、ひとり歩きをしかねないから。
 それに、なんだか陰口を言ってるみたいで、こういうのは嫌いだ。

< 9 / 175 >

この作品をシェア

pagetop