執事的な同居人
「……よし、」
そろそろ、起きてくる頃だろう。
エプロンを外し、ネクタイを付ける。
実はというとネクタイはあまり好きじゃない。首を絞められている感じがして、どうも苦手だ。
なのになぜ、今付けるかというと
「おはようございます」
「んー…おはよう……」
まだ眠たそうに目を擦る紀恵さんと、顔を合わせるからだ。
ボー…っとしているからきっと服装なんて見えていないだろうけど。
「ご飯出来てますよ。早く顔洗って来てください」
紀恵さんは学校のある朝だけいつも寝起きが悪い。
起きてきたかと思えば、リビングのソファーに横たわってまた寝ようとする。
それを阻止するのがいつもの朝。
「んー…あと5分…」
「ダメです。ほら、立って下さい」
腕を掴んで軽く引っ張り上げると、眉根を寄せて不機嫌そうな顔をする。
そんなにも学校に行くのが嫌か。
(学校に行ったら、例の彼氏に会えるのでしょう?)
なら、そんな顔じゃなくて、いつもの楽しそうな笑みを浮かばせるべきだ。
「顔洗ったら、制服に着替えて下さい」
「もー、分かってるっ」
不機嫌な彼女は嫌々ながらも洗面所へと向かう。
そんな姿は昔から直っていないらしく、幼い頃の面影が思い浮かぶ。
(毎朝、この時間だけは昔に戻ったみたいに思えるな)
家が隣同士だったため、俺はよく紀恵さんの家で朝ご飯を食べさせてもらっていた。
両親が共に朝早く家を出ていたから、紀恵さんの両親が気を遣ってくれていたのだろう。
だから、あの頃から紀恵さんの寝起きの悪さには気づいてた。