執事的な同居人
「颯太さん?」
「……あっ、はい。なんでしょう」
ああ、ダメだ、ボーッとするな俺。
何度か名前を呼んでくれていたのだろう。俺が全く反応を示さなかったからか、紀恵さんは不思議そうに首を傾げていた。
「今日は夜の仕事あるの?」
「いえ、今日も休みです。」
「そっ!…うなんだー…」
分かりやすく、紀恵さんの顔に笑顔が。
隠しているつもりだろうけど、顔がパァ…!っと明るくなったため隠しきれていない。
休みだと言った日は、大抵そんな顔をしてくれる。
それは1人で食べるのが寂しいからか、
それとも俺が居て嬉しいのか。
どちらでもいいが、そういう理由なら素直に嬉しいと思ってしまう。
「では、先に出ますね。」
今日はどんなご飯にしようか。
昨日は肉系にしたし、今日は魚系にでもー…
家を出る前に、再びネクタイをキュッと締める。
今度は上司に会うのだから、キッチリしておかなければいけない。
靴を履いて、床に置いたカバンを拾おうと振り返れば
「行ってらっしゃい…!」
そのカバンを持った紀恵さんが目の前にいて
「はいっ!」っと俺にそのカバンを渡してくれる。その顔はとても嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべて。
その笑顔と共に俺の瞳に映る物、
_______ヘアクリップ。
「……これ、付けていくんですね」
気づけば、そのヘアクリップにそっと触れていた。