執事的な同居人
「ああ、心配しなくても
僕は紀恵さんに気なんてありませんよ。」
コイツの言っていることが全部正しいのだから。
" 手を出してはいけない "
理解していたくせに、手を出してしまった俺が悪い。
紀恵さんには彼氏がいる。
だから
「紀恵さんにとっても、僕は同じ家に住むただの同居人に過ぎないですから。」
そういうことだ。
「気がないなら…なんで……」
紀恵さんが何かを言った気がした。けれど声が小さかったからか、俺の耳に届くことはなく
「颯太~?」
篠原が俺を呼ぶ。
ちょうど今、電話が終わったみたいで
「何してんの、行くよ~」
「ああ、今行く。」
篠原にそう返事をして
「紀恵さ……」
「約束通り、夕方には帰ります」そう言おうとしたけれど、
もうそこに
彼女の姿はなかった。