執事的な同居人
「あの日から颯太くんの名前見かけなかったし、辞めたのかと思っちゃった」
麗華さんの言うあの日とは、
前に一度、今日みたいに外での接客をお願いされた時だ。その日の最後の接客相手が麗華さんだった。
「引っ越し等で色々とバタついてまして」
嘘は言っていない。本当の事。
ニコリと微笑んで麗華さんを見れば、
彼女は「ふぅん?」と呟いて
「まあでも、
……もう一回会えて嬉しい」
甘えるように俺の腕に抱きついてきた。
「そう思って頂き光栄です。」
ドキドキはしない。というよりも、何も感じないといったところだ。
この女性はきっと俺に少しの希望を持っているはず。
残念ながら、
俺はキミを金蔓としか思ってないよ。
「ねぇ、そこのお兄さん。」
麗華さんがこの店の雑用係に声をかけると
「1番高いお酒持ってきて」
何の躊躇いもなくそう伝えた。
「2本ね。」
そして指で2という数字を示すようにピースをする。
「何百万円もしますけど、いいんですか?」
「もちろん。
久々に会えたその記念として、ね。」
ふわりとまた笑みを浮かべる。
もちろん彼女もこの高級な店に来るくらいなのだから、大手企業の御令嬢といったところだ。