執事的な同居人
「颯太くんさ~ さっき引っ越したって言ってたよね。それって賃貸?それとも分譲?」
「賃貸……ですが?」
聞いてどうするんだ?
正直に言えば、あの家は石沢さんが支払ってくれていて俺は一銭も出していない。
……その代わりに紀恵さんの面倒を見て欲しい、という契約で。
「じゃあさ、
私のところにこない?」
俺の手に手を添える麗華さん。
女性らしい細くて白い指がツー…と手の甲を微かに撫でるように滑らした。
「………どういうことですか?」
そんな彼女に対して俺は微笑みを浮かべる。
「そのまんまだよ。また颯太くんと会えなくなるの寂しいから、家に来てよ。
私と一緒に住まなくてもいいよ?
私の所有するマンションに来てくれるなら。」
……さすが御令嬢。話を聞く限り、複数のマンションを所有しているらしい。
「颯太くんは何も払わなくていいよ。タダで住ませてあげる。
……そのかわり、私のそばにいるのが条件ね」
甲を滑らせていた指が、俺の指を捕らえてキュッと掴まれる。こうやって沢山の男を引っ掛けてきたのだろう。
この女に全くもって興味はない。
……ただ、その条件に心は揺さぶられていた。
あの家を出て行く良い機会なのでは、と。