執事的な同居人
きっと家を出るのが正解だと思う。…が。
ご飯を食べる前、必ず手を合わせてから食べ始めるところ。
学校のある朝だけいつも寝起きが悪いところ。
俺の作ったご飯を「美味しい!」と無邪気な笑顔を浮かべながら食べてくれるところ。
夜の仕事が無い時、隠してるつもりだろうけど嬉しそうに笑顔を見せるところ。
そんな姿が脳裏に浮かぶと、家を出たいという気持ちは一瞬にして無くなってしまった。
俺があの家にいると、きっとこれからも紀恵さんにあんな顔をさせてしまうだろう。
分かっているはずなのに
紀恵さんのそばを離れたくないなんて、
あの日、許可もなくキスをしたように
…………ほんと自分勝手だと思うよ。
あの家に来た理由は、もう一度紀恵さんとの思い出を作りたかったから。
幼い頃で止まってしまった思い出を、また作り始めたかったから。
はじめは興味本位だったんだ。
家を探していると石沢さんに相談したとき、
「ちょうど紀恵が一人暮らしをしてるんだ!今でも女の子1人で生活させるのはどうも怖くてなー…
良かったら、紀恵の面倒を見てくれないか?」
そう言われ、俺の脳内で消えかかっていた事が一瞬にして蘇る。
幼い頃で止まってしまった紀恵さんの姿。
今、どうなっているんだろう、と。
それはもう、本当に興味本位で。
知りたいと思った、紀恵さんの今を。