執事的な同居人
「水とリンゴジュースどっちがいい?」
「あ……じゃあリンゴジュースで…」
ここで水と言うよりもリンゴジュースって言ってしまう私はだいぶ子供だと思う。
渡されたグラスからは微かにリンゴの匂いがした。
「それでさ!颯太って家でどんな感じ?」
私の隣に腰を下ろした彼。1人分空けて座ってきたものの、少し近いその距離に小さく横にずれた。
ずれたところで距離はあまり変わってないけど。
「てか、一緒に住んでんの?」
「あ、はい。颯太さ……じゃなくて、お兄ちゃんの家が学校から近いんで卒業まで住ませてもらってるんです。」
我ながら上手い嘘だと思う。
「あー確かに!通学ってめんどいし、近い家があるなら断然そこから通った方がいいよな!」
納得してくれたこの人に私は苦笑い。口元が引き攣っているように見えるだろうけど、きっとこの人は気づいていない。
「俺もさ、学生の頃一人暮らしの女の子の家とかによく泊まらせてもらったわ~
学校から近い場所なら尚良し!
通学の時間を縮めれるから、ちょっとでも寝る時間を増やしたくて」
「…睡眠は大事ですよね」
「そうそう!颯太もそんな事を言って女の家転々としてたしさっ」
まさかこの話に颯太さんが出てくるなんて思ってなくて、身構えてなかった私はピクリと反応した。
(女の家を転々としてた…?)
この人の言っていることは学生の頃の話。
私が颯太さんの事を忘れていた時の話だ。
だからその時の颯太さんのことなんて何も知らないし、彼がどんな事をしていたかも知る由もない。
それが今、知れるのかも。