執事的な同居人
「ここで、初キスの方が良かったですね」
離れると、ふっと鼻で笑う颯太さんは
優しく涙を指で拭ってくれた。
「すみません。俺が抑えきれなかったもので」
「っ………」
「紀恵さん」
ふわりと颯太さんに抱きしめられた。
零れ落ちる涙のせいで颯太さんの服にシミを作る。
「ずっと黙っていて、すみません。
俺は紀恵さんの事を覚えていましたよ。
ここに来た時からずっと。
癖も、昔から変わってないところも、全て覚えてました。
……ただ、言い出せなかった。
紀恵さんが俺との思い出を思い出してくれて
"颯ちゃん"と昔のように呼んでくれるあなたが愛おしくて仕方がなかった。
だけど、俺は完璧な人間じゃない。
既に紀恵さんに手を出してしまったように
俺は至って普通の男で、
愛おしい人が目の前に居れば触れたいと思うし、こうやって抱きしめたいとも思うんです。」
颯太さんの腕の中で静かに聞いた。
そうだったんだ…
颯太さん、ずっと覚えててくれたんだ…
私が思い出すよりも前からずっと。