執事的な同居人
「…………やだ。」
ポツリとそう言えば
颯太さんの顔に笑顔が戻った。
「俺も、嫌です。なので紀恵さんのご両親にちゃんと説明が出来たその日までは、外での接触は禁止にしましょう。」
「うん……分かった」
"もしアイツと付き合えたとしても、普通の付き合い方はできないよ。"
ふと、この時にカイの言葉が頭に浮かぶ。
今になってそれがやっと理解できた。
私は高校生で、颯太さんは社会人。
そんな2人が手を繋いで歩いていたら、きっと変な風に見られちゃうもんね…
今日みたいにお出掛けをしたとしても、私達は周りの人みたいに手を繋いじゃいけない。
………一定の距離を保たなくちゃいけない。
それってすごく悲しくて寂しいことだけど、
颯太さんと一緒に暮らせなくなる方がよっぽど悲しいよね。
「………ですが、」
颯太さんの声で俯いていた顔を上げた。
「ここならいくらでも触れていいですよ」
手を広げて
「おいで、紀恵。」
私を呼ぶ。
しかも、いつもみたいに"紀恵さん"じゃなくて
呼び捨てで─────
「っ…………」
堪えていた事が弾け出るように、その場所へと飛び込んだ。
ギューっと抱きしめられると、一瞬にして心が和らぐ。
あぁ、好き。このぬくもりが大好きだ。