執事的な同居人
事情
修学旅行当日。
5時起きにも関わらず、颯太さんはいつも通りに私よりも先に起きて、軽い朝食のような物を準備してくれていた。
(わざわざいいのに……)
有難いけど、さ。
「歯ブラシセット入れました?」
「入れた~」
「ティッシュとハンカチは?」
「入れた」
「折り畳み傘は?」
「……入れた」
「お金は?」
「もう!ちゃんと準備したってば!!」
さっきから何度も持ち物のチェックをしてくる。
「お母さんか!!」ってツッコミたくなるくらいに。
「心配性なんだから……」
「あなたが忘れ物多いからですよ。この前なんてスカート履かずに学校へ行こうとしたじゃないですか」
「ちょっ!?それ!忘れてって言ったじゃん!!」
恥ずかしすぎて朝から顔を真っ赤に染める私。
楽しい楽しい修学旅行だっていうのに…!!
「颯太さんのバカ!!!!」
べーっと舌を出し、逃げるように玄関へ。
颯太さんのせいで嫌な気分になった。
(もうっ、嫌い!絶対お土産買ってあげないんだから!!)
プンスカと怒りながら少し荒く靴を履く。
「紀恵さん」
「なに!!」
「忘れ物ですよ」
「……………」
顔を見たくないのに。
だけど忘れ物なんて言われたら振り向くしかなくて
「………どれ」
しぶしぶ振り向けば
(あっ、しまった)
そこには口角を上げて
ニヤッと笑う颯太さんの姿が。
(……騙された)
そう思う前に
颯太さんは私の腕を引いて────キス。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
ふわりと笑顔を浮かべる彼にこんなことをされては、さっきまでのむしゃくしゃした気持ちなんてゼロになってしまった。
「いっ…てきますっ…!!」
たぶん赤いであろうこの顔を隠すように、急ぐように、玄関を飛び出る。
心臓がドキドキと煩くて、外は早朝のため少し寒いくらいなのに身体はすごく熱い。
(ああもう………)
ほんと、大好き、だなぁ…。
ずっと待ちに待ってた修学旅行だけど、
言い換えれば今日から2日間は颯太さんに会えないんだ。
そう思うと、たった今家を出たばかりなのに、
(……抱きつけば良かった)
少し離れがたい気持ちになってしまった。